最新水まわり物語

2021年 夏号地中に埋まる大学の新しい交流施設
Hisao & Hiroko Taki Plaza
取材・文/大山直美
写真/川澄・小林研二写真事務所(ポートレイトを除く)



寄附によって生まれた新しい大学施設
2020年12月、東京工業大学大岡山キャンパス内に、学生のための国際交流拠点「Hisao & Hiroko Taki Plaza(ヒサオ・アンド・ヒロコ・タキ・プラザ)」が竣工した(本格使用は21年4月から)。東工大の卒業生である、ぐるなび取締役会長・創業者の滝久雄さんが寄附した30億円をもとに建設したため、施設名に滝夫妻の名前を冠している。同氏はこれ以外に、お茶の水女子大学と東京藝術大学にも各10億円を寄附。お茶の水女子大は一昨年「国際交流留学生プラザ」が完成済みで、東京藝大も目下、同様の構想が進行中だ。建築設計は滝さんの指名で、3校とも隈研吾さんが手がけている。今回完成した東工大の建築全体とトイレの設計の見どころについて、隈研吾建築都市設計事務所の名城俊樹さんと渡邉啓太さんにお話をうかがった。
名城さんによれば、3校は敷地条件などが大きく異なることから、とくに設計上の共通点があるわけではないが、国際交流が施設共通のテーマであるため、できるだけ学生が集まりやすいデザインにすることと、建物内にアート作品を積極的に展示することを心がけたという。アートに関しては、寄附者の滝さんがパブリックアートの普及・振興活動に力を入れているためで、東工大の施設には1階の入口正面に、漫画家の大友克洋さんの原画・監修による壁画・陶板作品が設置されている。
ちなみに、隈研吾建築都市設計事務所で3つのプロジェクトにかかわっているのは名城さんだけで、それ以外のメンバーは大学ごとに異なり、東工大と東京藝大に関してはそれぞれの卒業生がチームを組んでいるという。各大学の事情にくわしく、仕事に携わるうえで愛校心も原動力になると考えると、一石二鳥だろう。また、それだけいろいろな大学の出身者が揃った事務所だからなせるわざともいえる。


地下に埋め見通しをよくする計画
東工大大岡山キャンパスのシンボルといえば、建築家の谷口吉郎が設計にかかわったといわれる本館の時計塔だが、敷地は正門を入ってすぐの位置にあり、その奥に時計塔があるため、「まず正門に立ったときに時計塔が見えることが重要でした。それを実現すると同時に、できるだけ圧迫感を出さない建物にしたいと考えた結果、機能の過半を地下に埋めることになりました」と名城さん。また、大岡山の地名のいわれには諸説あるが、昔から小高い丘が多い土地であることもあって、建築全体を丘状にしたプランが生まれたと語る。東工大出身の渡邉さんいわく、「以前ここにはもっと大きくマッシブな図書館が立っていたので、見通しはよくなりました」。
実際に大岡山駅前にあるキャンパスを訪れると、すでに正門前の交差点から、階高を抑えた建築越しに時計塔がはっきり見える。地面から屋根まで階段状のスロープでつながっており、手前ほど低くなっているのも時計塔が見えやすい要因だろう。植栽も施されているので、まさに人工の丘のようだ。手前には地階と隣接する新図書館のドライエリアに通じる大階段があり、地下に大きなボリュームが埋まっていることを感じさせる。
室内は地上・地下2層ずつの4層からなり、地下2階にイベントスペース、地下1階に留学・就職情報エリア、1階に学務機能とエントランス、カフェ、2階に畳の小上がりのあるグループワーク用スペースなどがある。内部も外観のイメージそのままに、4層が大きな階段と吹抜けでシームレスにつながり、さらにどの階にも外から直接アプローチできるため、視線が縦横無尽に抜け、階層を超えた連続性と開放感が感じられる。



東工大らしいトイレを目指して
トイレは4フロアとも同じ位置に1カ所ずつ設けられている。完成済みのお茶の水女子大のトイレと比較すると、白を基調にしたシンプルで清潔感のある空間、カウンター下をオープンにして照明付きの個別鏡を配した洗面コーナーなど、一見すると似ているようにも見えるが、「基本的な造りは近いですが、予算や水圧などの諸条件も異なりますし、大学によってトイレに対する考え方は結構違いますね」と名城さんは言う。
そもそも東工大とお茶の水女子大の最大の差は男女比。女子大が教職員を含めても圧倒的に女性が多いのはわかるが、東工大も大学のなかではかなり特殊で、昨年の公式発表によると、学士課程学生全体に占める女性の割合は年々増えているとはいえ、わずか12・9%。それゆえ、昨今のトイレには珍しく、女子トイレにはパウダーコーナーもなく、全体に占める男子トイレの面積が他校に比べてかなり広いそうだ。「今回の建物は職員が多く、職員は学生に比べると女性の比率が高いので、まだこれでも他の校舎に比べると女子トイレは大きめになっています」と渡邉さん。
かたや、お茶の水女子大のトイレは女性用のほうが広く、ブース数も多いのは当然だが、要注目は施設内の3階に設置された、性別を限定しない男女共用トイレ。名城さんによると、計画中にトランスジェンダー(からだの性とは異なる性自認をもつ人)の学生の受け入れを決定したこともあり、多様な利用者に配慮したものだという。大学では先進的な試みといえるだろう。
ところで、東工大のトイレでひときわ目を引くのが、入口のピクトサインだ。ごらんのとおり、積層合板を用いた立体的なオブジェが設置されており、エレベータのサインも同様のデザイン。素材は木材とカラー再生紙を積層した製品「ペーパーウッド」で、男性用がブルー、女性用がレッドの紙を挟んだ板を使用している。隈研吾建築都市設計事務所にはサイン専門のスタッフがおり、たいていオリジナルでデザインしているそうだ。お茶の水女子大のピクトサインは男性・女性・多機能のどれも、スクールカラーの古代紫を用い、形状だけを変えたピクトグラムを採用しており、名城さんいわく、「昨今のジェンダーの観点からすると、あちらのほうが時代に合っているんでしょうが、ここでは形だけではややわかりにくいため、少し色をつけました。縞模様の素材は、建物の雰囲気にも合っているので選んだものです」。
はたして、3つ目の東京藝大の建築とそのトイレがどのようなものになるのかも楽しみだが、東工大の「Hisao & Hiroko Taki Plaza」に関しては、内も外もどこまでもつながった造りが印象に残った。隈さん自身が内覧会当日に配布されたパンフレットに綴っているとおり、「今後、ますます進んでいく国際化のなかで、この緑の丘からさまざまな交流と交換が生まれていく」ことを期待したい。

-
建築概要
所在地 東京都目黒区大岡山2-12-1 事業主 国立大学法人東京工業大学 主要用途 複合施設 設計 隈研吾建築都市設計事務所 施工 鹿島建設、日比谷総合設備、大栄電気 敷地面積 137,088.40㎡ 建築面積 1,293.37㎡ 延床面積 4,879.39㎡ 階数 地上2階、地下2階 高さ 13.96m 構造 鉄筋コンクリート造 設計期間 2017年8月~2019年1月 施工期間 2019年3月~2020年11月 -
おもなTOTO使用機器
1F
女子トイレ WL一体形便器ネオレストAH2 CES9898WRT15 男子トイレ WL一体形便器ネオレストAH2 CES9898WRT15
壁掛壁排水自動洗浄小便器 UFS900WR
パブリック用手すりレストルームアイテム01 T115CU3R多機能トイレ 多機能トイレパック XPDA5RS4211WWG
マーブライトカウンターボウル一体タイプ MC60
ベビーシート YKA25R
-
名城俊樹Meijo Toshiki
隈研吾建築都市設計事務所
パートナー -
渡邉啓太Watanabe Keita
隈研吾建築都市設計事務所
設計室長