最新水まわり物語

2022年 新春号リアルとリモートのハイブリッドのなかで行きたくなるオフィスを目指して
TOKYO TORCH常盤橋タワー
取材・文/大山直美
写真/傍島利浩


日本を照らすトーチのような超高層
三菱地所が再開発を進める東京駅日本橋口前の街区「TOKYO TORCH(トウキョウ・トーチ)」に、2021年6月、プロジェクトの第1弾である「常盤橋タワー」が竣工した。
トウキョウ・トーチといえば、2027年度に完成予定の地上63階建ての「Torch Tower(トーチタワー)」の頂部デザイン監修を藤本壮介氏が行うことが話題を呼んでいるが、今回完成したのは、同じ街区内に立つ38階建てのオフィス+商業施設の複合ビル。トーチタワーのあまりの大きさに比べると小さいが、高さ212mは実は完成時点では大手町エリアで最高で、敷地がかつて江戸城に通じる常盤橋御門が築かれた歴史ある場所であることから、外観デザインには「刀」のイメージが取り入れられている。
この街区面積3.1haにおよぶエリアにはもともと5棟のビルに加えて下水ポンプ場と変電所があった。これらの都市インフラを稼動させながら10年がかりで順次、解体と建て替えを進め、最終的に2棟の超高層タワーと地下変電所+広場、下水ポンプ所の計4棟として再生するという息の長い計画だ。
三菱地所の岩崎哲也さんによれば、プロジェクト全体のテーマは「日本を明るく、元気にする」。トーチというモチーフもその象徴として選ばれたという。たとえば、今回先行して常盤橋タワーとともに整備された広場には、錦鯉が泳ぐ池が設けられているが、これは新潟県小千谷市との協業によって実現したもの。ほかにも全国の自治体と協業し、東京駅前から日本の地域文化の魅力を世界に発信するさまざまな取り組みを行っている。




常盤橋タワーの最大の特徴は、新しい働き方をサポートするための場とサービスが非常に充実している点にある。「計画当初は10年先と思っていたリアルとリモートのハイブリッドといった働き方が、コロナ禍によってここ2年ほどで加速度的に進みました。リアルに働く場をつくる私たちとしては、働く人が来る必然性を感じるような機能をもつビルをつくっていかなければ生き残れないのではないかと感じています」と岩崎さんは語る。
そうした同社の考え方を体現するのが、3階と8階の2フロアに設けた、就業者向けの共用空間だ。まず、3階にある「MY Shokudo」は、テナントの就業者向けの共用スペースとして整備したカフェテリア(夜は一般にも開放)。外観デザインにも通じる「和」をイメージし、木を多用した明るく開放的な空間に、ゆっくりソファでお茶が飲める場や、夜はお酒も楽しめるカウンター席など、多様なコーナーが設けられている。
「また来たいと思えるような気持ちのいい空間をつくることによって、単に短時間に胃を満たす社食ではなく、くつろいだり、仲間や異なる企業同士の人とも会話を楽しんだりすることで新しいアイデアが生まれる場にしてほしいと考え、当初は飲食店が入る予定だったフロアをすべて自分たちで運営する食堂に変えたんです」と岩崎さん。オフィスビル内にこうした共用の食堂を設けるのは、三菱地所では初めての試みだという。
一方、8階も同じくテナントの社員なら誰でも使える共用スペースで、ラウンジや大会議室などを完備。企業を超えたシェアオフィスのような趣だ。





異なるシーンに対応する六角形のトイレ
さて、働く人が来たくなる場を目指すオフィスビルだけに、当然トイレにも並々ならぬ力を入れている。前述のとおり、地方自治体との協業に取り組む三菱地所では、他企業とのコラボレーションにも注力しており、TOTOも協業先のひとつ。両者は未来のオフィストイレはどうあるべきか、協議を重ね、食堂のある3階に先進的なトイレを生み出した。その名も「nagomuma restroom(ナゴムマ・レストルーム)」。
最も画期的なのは小便器コーナーを除き、男女とも洗面台を完備した六角形の個室ブースを基本とした点にある。しかも、ブース内の内装にはブラウン調の「くつろぎ」、ベージュ基調の「いきぬき」、グレイッシュな「おちつき」、ホワイト基調の「ひらめき」の4種類があり、まず入室して鍵をかけると天井・鏡・足元の照明が点灯し、着座すると内装ごとに異なるサウンドが流れるという凝った仕掛け。
岩崎さんによると、当初はジェンダーレストイレを追求するなかで個室完結型を基本にすることが決まり、次に今後のトイレはリフレッシュの場としての役割がより大きくなるだろうという予測から、光や音の機能が付加されていったとのこと。「見学した人はみんな口を揃えて、このトイレは落ち着くから長居しちゃうねとおっしゃいます」と笑うのは、設備設計を担当した三菱地所設計の髙西茂彰さん。
また、男女トイレの境にある2ブースには2辺にドアがあり、混雑データを分析しながらシーズンごとに切り替えて使用できる。髙西さんによれば、食堂に隣接するため当面はランチ時の混雑を想定し、男性トイレに小便器と洗面コーナーを設けることにしたが、将来はすべてが六角形ブースの個室完結型に改修することも可能だそうだ。
さらに、トイレの入口には各ブースの空き状況がわかるサイネージを設置。事前にここで確認して好みの内装のブースを選ぶことも可能だ。IoTの活用としてはこのほかにも、TOTOの「設備管理サポートシステム」を導入しており、ウォシュレット、小便器、オートソープディスペンサー、自動水栓、電気温水器の使用状況が遠隔で一括管理できる。これまで水石鹼切れがないよう何度も見まわったり、季節によって温水の温度設定を個々に行ったりしていた施設管理者の手間が大幅に軽減できることになる。





トイレはテクノロジーの集積
続いて、オフィス基準階の23階と、共用ラウンジのある8階のトイレを見学した。
基準階のトイレは男女とも両方向に抜けられる細長い空間で、入口の扉はなくし、両端に洗面コーナー、中ほどにブースを配したプラン。女性トイレには独立したフィッティングルームを確保している。エレベータホールや廊下など、基準階の共用部と同様に、ベージュ系でまとめたトイレの内装にも3階の食堂に通じるやわらかさ、軽やかさ、明るさが感じられる。
また、一見しただけでは気づきにくいが、男性トイレの洗面カウンターの高さは女性用より5cm高い85cm。かがむとネクタイが濡れたり水が跳ねたりしやすいため、洗面台の高さ、洗面ボウルの深さなどを実際に検証しながら選定した。
8階はエレベータバンクとの兼ね合いで、基準階とは異なる位置にトイレを設けているため、通り抜けはできず、開口部に面している。特別なフロアであるため、共用部のデザインも基準階とは多少変えているそうで、トイレの内装も洗面コーナーの壁に男女それぞれ別の色を配するなど、よりスタイリッシュな印象だ。
最後に、設備設計の立場から今回のプロジェクトで印象に残ったことを髙西さんにたずねたところ、興味深い答えが返ってきた。
「もともと衛生器具には着座センサーをはじめ諸々のセンサーが付いていますので、せっかくなら便器が主役となって、いろいろな設備を動かしてシーンをつくればいいのではないかとご提案して、それが実現したことは収穫でしたね」
トイレはリフレッシュの場であると同時に、中で倒れている人や長時間こもっている人がいないかといった管理データなど、いろいろな情報を取得できる場になると髙西さんは言う。便器がハブとなり、今までバラバラだった建築設備とトイレ設備をつなぐ役目を果たすことで、さまざまな可能性が広がっていくのかもしれない。



-
建築概要
所在地 東京都千代田区大手町二丁目6番4号 事業主 三菱地所 主要用途 事務所、店舗、駐車場など 設計 三菱地所設計 施工 戸田建設 敷地面積 5,455.97㎡ 建築面積 4,037.15㎡ 延床面積 約146,000㎡ 階数 地上38階、地下5階 高さ 約212m 構造 鉄骨造、一部CFT造(地上)鉄骨鉄筋コンクリート造、一部鉄筋コンクリート造(地下) 設計期間 2015年4月~2017年12月 施工期間 2018年1月~2021年6月 -
おもなTOTO使用機器
3F nagomuma restroom
男性トイレ ネオレストAH CES9788
自動洗浄小便器 US900JCS
ボウル一体型カウンター MKWD
自動水栓 TENA125AH
ハイドロセラフロアPU AB690EW
クリーンドライ(高速両面タイプ) TYC420W
壁掛ハイバック洗面器 LS125DM女性トイレ ネオレストAH CES9788
ボウル一体型カウンター MKWD
自動水栓 TENA125AH8F、23F
男性トイレ 腰掛式フチなしトルネード便器(壁掛式) CS573P
自動洗浄小便器 US900R
ツインデッキカウンター UTNLCA
アンダーカウンター式洗面器 L505
自動水栓 TENA127AH女性トイレ 腰掛式フチなしトルネード便器(壁掛式) CS573P
ツインデッキカウンター UTNLCA
アンダーカウンター式洗面器 L505
自動水栓 TENA127AH
-
岩崎哲也Iwasaki Tetsuya
三菱地所
TOKYO TORCH事業部
事業推進ユニット 兼 開発企画ユニット
統括 -
髙西茂彰Takanishi Shigeaki
三菱地所設計
機械設備設計部
兼 TOKYO TORCH設計室
チーフエンジニア