最新水まわり物語

2022年 春号天神ビッグバン第1号
世界基準の複合オフィスビル
天神ビジネスセンター
取材・文/大山直美
写真/傍島利浩

昨年秋、福岡地所が福岡市中心部の天神地区で開発中だった複合オフィスビル「天神ビジネスセンター」が竣工した。同ビルは市の再開発促進事業「天神ビッグバン」の規制緩和の適用を受けたビル第1号で、地下2階、地上19階建て。デザインアーキテクトはOMAニューヨーク事務所代表の重松象平さん、基本計画・基本設計は日本設計、インテリアデザインはグエナエル・ニコラさん率いるキュリオシティ、実施設計・工事監理・施工は前田建設工業が担当した。
福岡地所の田代剛さんによれば、市が規制緩和や容積の割り増し制度を盛り込み、再開発を促す「天神ビッグバン」という施策を打ち出した背景には、この地区にはグローバルなビジネス拠点にふさわしいオフィスビルが少ない現実があったという。同じ課題意識をもち、「福岡をもっとおもしろく」というミッションを掲げる同社だけに、一番乗りで参画したのは当然の流れだったようだ。



街のランドマークとなる象徴的な外観
建築の最大の特徴はビルの足元と頂部のふたつの角をピクセル化して削ることで内と外をゆるやかにつなぎ、交差点角に広場をもたらす一方、街のランドマークにふさわしい象徴的な外観を実現している点にある。
福岡は空港が近いため、高さ制限が厳しく、敷地ぎりぎりに建物を建てざるをえないことから、遠方から望めるタワービルを建てにくい状況にあるが、OMAの提案は「シンプルな操作でありながら、さまざまな与件をクリアしたうえで、非常にインパクトのある外観を生み出し、かつオフィスらしさも併せもっている。削られた上層階の室内は窓が大きくとれるため、より眺望を室内に取り込め、テナントの付加価値も高めています」と田代さんは語る。




「いいトイレ」の実現
もうひとつの特徴は、着工直後にコロナ禍が起こり、急遽可能な限りの設計変更を盛り込んだ点にある。おもに空調の換気システムの見直しと、非接触対策のふたつが軸になったという。
基準階のトイレにも当然コロナ対策は施されているが、それだけにとどまらず、どこの最先端オフィスビルにも引けをとらない「いいトイレをつくる」ことを目指したと語るのは、入社早々プロジェクトチームのスタッフとしてトイレづくりを担当した山﨑まりあさん。田代さんによると、山﨑さんは福岡だけでなく東京の最新オフィスも熱心に見学し、女性の意見を事細かにヒアリングしたうえで、快適なトイレづくりに取り組んだそうだ。
まず最優先したのは個室数。
「待たずにすむだけでなく、前の人が使った直後という感覚を払拭するために、衛生工学会の算定器具数の最高レベル1(ゆとりのある機器数)+2個を目指しました」と山﨑さん。そのうえで、男女トイレの間仕切り壁をずらすことで、従業員の男女比に合わせて個室数を調節できるプランを採用している。
一方、個室数を確保するしわ寄せでスタイリングコーナーをなくす案も浮上したが、山﨑さんはその使用頻度がいかに高いかを綿密に調査して社内プレゼンすることで、これを死守。しかも、女性トイレには手洗い器を個室内に設けた広めのブースをふたつ完備した。これは産後復帰した女性が搾乳したり、体調が思わしくないとき休憩したりする場としてトイレを使うことがあるという話を聞き、少しでもゆったり過ごせる空間を用意したかったからだという。換気効率を高めることでパーティションを天井まで立ち上げたので、プライベート感がより増している。
また、昨今オフィス内でノートパソコンを携帯する機会が多いため、洗面コーナーや小便器のライニングカウンターなど、荷物を置くスペースは極力ノートパソコンが置ける奥行きを確保。ちなみに、男性トイレには2個ある歯磨きボウルが女性トイレに見当たらない理由は、山﨑さんいわく「女性は大半がコップを使用するので、通常の洗面器の数を増やしたほうが現実的だと判断しました」。こまやかな配慮が随所にちりばめられている。
さらに、このビルでは、共用部のインテリアデザインを担当したキュリオシティが、トイレの内装も手がけたというのも商業施設並みの贅沢さ。照明計画もライティング・プランナーズ・アソシエーツ(LPA)が携わっており、入口からトイレゾーン、スタイリングゾーンと奥へ進むにつれて明るさが増し、気分が切り替わるという演出。高低差をつけたミラーがリズミカルに並ぶ洗面コーナーやスタイリングコーナーは、アトリウムなどの共用部のデザインともリンクして見える。



コロナ禍の感染対策
そして、忘れてはならないのが、着工後にこれらにダメ押しのコロナ対策が加わったことだ。男女とも各1ブースに日本初となる非接触でドアを開閉するセンサー、洗面コーナーには個別に仕切るパーティションを追加し、壁面にはゴミ箱付きのペーパータオルホルダーも設置した。「カウンターの奥行きにしても、限られたスペース内で調整するのはとても大変で、やっとそれが収まったと思ったら今度はペーパータオルホルダーの設置場所が必要になるなど、設計を担当した前田建設工業さんには本当にご苦労をおかけしました」と田代さん。
前田建設工業の座古竜介さんによると、隣接する付室との間の壁をずらすといった、ミリ単位の微調整を要したという。その一方で、鏡貼りのディテールなど、「点と点が交わる納まりが非常に多かったので、2㎜ を超える誤差が許されない現場でした」と苦笑する。折衝役はさぞかし大変だっただろうが、「ここまで突き詰めてオフィスのトイレを考える機会はあまりないので、福岡地所さんやデザイン事務所と話し合いを重ねながら、一つひとつ進めていきました。結果的に、男性トイレの洗面コーナーはトイレから距離を置いた場所で歯磨きができるなど、独立性を高められ、使い勝手が向上したかなと思っています」と座古さんは出来ばえに満足げだ。
また、使う女性の立場に立って全力でトイレづくりに取り組んだ山﨑さんは、最後にこう語ってくれた。
「入社したばかりで右も左もわからないまま始めた仕事でしたが、今までは何気なく使っていたトイレがここまで考えてつくられているのかと気づかされたことが多々あり、トイレを通じてディベロッパーとしての視点が学べました。みなさんが喜んで使ってくださればうれしいですね」

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建築概要
所在地 福岡県福岡市中央区天神1-10-20 事業主 福岡地所 主要用途 事務所、店舗、駐車場等 設計 デザイン・アーキテクト:
OMA/重松象平
基本計画・基本設計:日本設計
実施設計・工事監理:
前田建設工業施工 前田建設工業九州支店 敷地面積 3,917.18㎡ 建築面積 3,234.55㎡ 延床面積 61,100.34㎡ 階数 地下2階、地上19階、塔屋2階 最高高 89.525m 構造 鉄骨造、一部鉄筋コンクリート造、免震構造 設計期間 基本構想・基本計画:
2013年7月~2015年4月
基本設計:2015年4月~2016年12月施工期間 2019年1月~2021年9月 -
おもなTOTO使用機器
オフィス基準階
男性トイレ マイクロ波センサー壁掛小便器 UU117R
壁掛フチなしトルネード大便器・フラッシュタンク式CS530P
ツインデッキカウンター・ボウル一体型タイプ
歯磨き器 L595
手洗い器 CEL420R、CET930T女性トイレ 壁掛フチなしトルネード大便器・フラッシュタンク式CS530P
ツインデッキカウンター・ボウル一体型タイプ
手洗い器 CEL420R、CET930Tバリアフリートイレ フラットカウンター多機能ユニット
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田代 剛Tashiro Go
福岡地所
建設部長 -
山﨑まりあYamasaki Maria
福岡地所
開発事業三部 -
座古竜介Zako Ryusuke
前田建設工業
建築事業本部
建築設計統括部
九州サテライト設計室