最新水まわり物語

駅舎の夜景。膜の屋根から光が漏れる。 提供/鉄道・運輸機構

2022年 夏号社会の変化をとらえ充実した
ユニバーサルデザインを目指す

西九州新幹線 長崎駅

西九州新幹線 長崎駅 提供/鉄道・運輸機構
駅舎外観。大規模な膜屋根で、長崎のシンボルになるような曲面の屋根を実現している。 写真/川辺明伸
左手は新幹線ホーム、右手は在来線ホーム。連続性のある屋根により両ホームが一体的な空間に。 写真/川辺明伸

夜景にも貢献する流れるような膜屋根を実現

 鎖国政策で海外との行き来が禁止されていた江戸時代、唯一世界に門戸が開かれていた町・長崎。異国情緒の漂う古い街並みや歴史遺産は21世紀になっても多くの人を惹きつけてきた。その長崎が大きく変わろうとしている。中心となるのがJR長崎駅。2022年9月23日開業予定の西九州新幹線の駅舎は20年3月に移転・供用開始された在来線の新駅とともに、新たな長崎の玄関口として産声をあげようとしている。
 西九州新幹線は、武雄温泉から長崎までの5駅約67㎞をおよそ30分で結ぶ。基本計画の決定が1972年というから、50年越しの、まさに悲願ともいえる開業で、沿線各自治体も地域活性化の起爆剤として、期待は大きい。街の顔ともなる5つの駅舎は、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下、鉄道・運輸機構)が中心になって計画が進められ、統一コンセプトは「ともに築く ときめきの駅」。鉄道・運輸機構が手がける新幹線駅の全体的なコンセプトが「地域に愛される駅」だから、「ともに築く」が西九州新幹線駅舎の大きな特徴といえるだろう。
 従来、鉄道・運輸機構が新幹線駅舎を新設する場合、外観デザインについては自治体からデザインコンセプトの提案を受け、それに基づいたデザイン案を複数提示。自治体は住民の意見を聞きながらひとつを選択して推薦し、選ばれた案に沿って鉄道・運輸機構が設計を進める。西九州新幹線駅舎でも、4つの駅ではこの方式で計画が進められたが、長崎駅では県と市が連携して策定した「長崎駅舎・駅前広場等デザイン基本計画」に基づく設計が求められた。それに伴うグレードアップ分の費用は県と市が負担したというから、地元のこの駅舎にかける並々ならぬ思いがうかがわれる。
 出来上がった駅舎は、県市の要望に沿ってヨーロッパの駅のような高い天井高や曲面の屋根などが実現され、なかでもホーム全体を軽やかに覆う膜屋根は「整備新幹線のホーム上家で膜屋根を採用したのは今回が初めて」(鉄道・運輸機構の立花貴光さん)という最大の特徴だ。日中、膜屋根を透過して明るい陽射しが降り注ぐ大空間をつくり出すとともに、夜間は世界新三大夜景(21年に認定。長崎、モナコ、上海)に寄与するように大きな光の繭となって町を彩る。この大胆な架構について、当初アーチ構造で検討されていたものが高架の鉄道建築物として構造的に成立させるためにラーメン構造に変更され、複雑な形状の鉄骨部材はBIM施工により実現された。また、柱梁はボルト接合ではなく現場溶接が行われたが、これも県と市からの要望によるものというから、地元からの要望がいかに具体的なものだったか想像できる。

トイレの入口。キリシタン関連遺産が世界遺産に登録された長崎を象徴するステンドグラスが設置されている。 写真/川辺明伸
ダルガラスの各ユニットは、市内在住の小学生以下の子どもたちとのワークショップによってつくられたもの。 写真/川辺明伸

駅の象徴となるステンドグラスの壁を
市民とつくる

 長崎駅のトイレは、新幹線コンコースのほぼ中央に位置している。そもそもわかりやすい場所にあるのだが、それをさらに印象深いものにしているのが、床から天井まで立ち上がるトイレ前のステンドグラスの壁である。
 男性トイレ側は青を基調に、女性トイレ側は赤を基調に構成されたステンドグラスは、長崎市の花であるアジサイがデザインモチーフ。「ガラスの敷石」という意味のフランス語を由来とする厚い「ダルガラス」を用いた。このダルガラスを使ったユニットの製作には、市内の小学生以下の子どもたち66人が参加している。コンセプトである「ともに築く」を具現化した活動で、昨年夏に市が参加者を募集したところ、およそ6・5倍、430人もの応募があり、当選者のなかには2歳のお子さんもいたという。新しい長崎駅が、行政だけでなく市民にも注目されている証である。
 作業は、青、赤、緑の3つのグループに分けて行われ、あらかじめラフにカットされたガラスピースを、専門スタッフの指導のもと、子どもたちが自由に配置していくかたちで進められた。工事終了後には、自分が張ったものがどの部分に使用されているか、参加した子どもたち一人ひとりに伝えられている。
 出来上がったステンドグラスの壁は、サインが焼き付けられた大きなアンティークガラスを天地センターに、その上下に子どもたちがつくったガラスユニットがはめ込まれている。駅の象徴ともなる大きなステンドグラス作品を大勢の手によってつくりあげながら、個人個人の記憶にもしっかりと残る活動。きっと参加した子どもたちはもちろん、多くの市民が、この前を通るたびに喜びと誇りを感じるであろうことは想像に難くない。

男性トイレ 男性トイレの内部。通路は車いすが通れる幅を確保している。小便器のあいだには隔て板が設けられている。 写真/川辺明伸
男性トイレ 男性トイレの個室のひとつ。機能分散したうえで車いす対応、オストメイト対応など、バリアフリートイレに準じた仕様になっている。 写真/川辺明伸

子連れ対応やLGBT対応も模索する

 バリアフリー法の改正に伴い、公共のトイレは機能分散が図られるようになっている。この長崎駅のトイレでもふたつのバリアフリートイレのほかに、男性トイレ、女性トイレそれぞれのブースのなかに多様な機能を分散させている。じつは法律の改正が行われた18(平成30)年、設計はすでに進められていたため、途中から機能を分散させる変更がなされたという。それでも最低限の変更で済んだのは、あらかじめ社会環境の変化を見越してトイレスペースが計画されていたから。「新幹線駅舎のサービスレベルを向上させる意味でも、さまざまなニーズを当初から想定していました」と言うのは鉄道・運輸機構の金澤和誉さん。インバウンドも含めて新幹線の利用者には観光客も多いからスーツケースなど大きな荷物を持っていることが予想される。また、最近ではビジネス客でもキャリーバッグを持つ人が増えているため、移動スペースも1400㎜ 幅を確保し、個室はベビーカーのまま入れるブースや車いす使用者用簡易型便房と呼ばれる車いす利用が可能なブース以外でも、荷物を置ける十分な広さをとっている。
 また、オムツ替えシートを男女トイレにそれぞれ独立して設けているほか、すべての個室ブースにフィッティングボードとチャイルドシートをつけるなど、小さな子どもを連れた人たちへの手厚い配慮がなされているのも特徴といえるだろう。
 また近年設置が減っていた、隣り合う小便器のあいだに隔て板を復活させたのはLGBTなどへの対応。「ユニバーサルデザインに正解はないとは思いますが、できるだけいろいろな人が安心して使えるように」(立花さん)という工夫が随所に盛り込まれている。
「これからさらにどのような機能が求められるようになるのかわかりませんが、広めにスペースを確保しておくことでいろいろなニーズにも対応しやすくなるのでは」(金澤さん)という言葉は、これから新たにつくられるトイレへの確かな提言になっている。

女性トイレ 女性トイレの内部。個室前やパウダーコーナーの前にも十分なスペースが確保されている。 写真/川辺明伸
女性トイレ 手洗いコーナーの脇には、おむつ交換台やフィッティングボード、幼児用小便器が置かれている。 写真/川辺明伸
バリアフリートイレ 一部カーテンで仕切ることができ、さまざまな状況に対応できるつくりになっている。 写真/川辺明伸
バリアフリートイレ 多目的シートがあり、オストメイト対応にもなっている仕様のバリアフリートイレが2室並ぶ。 写真/川辺明伸
  • 建築概要

    長崎県長崎市尾上町
    独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構九州新幹線建設局
    交通施設
    独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構九州新幹線建設局、安井建築設計事務所
    清水・西海・三基九州新幹線(西九州)、長崎駅新築特定建設工事共同企業体
    18,710㎡
    3,286㎡
    3,289㎡
    地上2階
    約26.8m
    鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造
    2015年11月~2018年11月
    2019年2月~2022年3月
  • おもなTOTO使用機器

    壁掛大便器セット・FV式 UAXC1CS1AN
    WLアプリコットP AP2 TCF5830YR
    コンパクトオストメイトパック UAS81L/RDB2NW
    掃除口付壁掛壁排水自動洗浄小便器 UFS900JCS
    セルフリミング式洗面器 L350C
    台付自動水栓 TENA41A
    掃除用流し SK22A
    ハンドドライヤー高速両面タイプ TYC420WC
    壁掛大便器セット・FV式 UAXC1CS1AN
    WLアプリコットP AP2 TCF5830YR
    コンパクトオストメイトパック UAS81L/RDB2NW
    壁掛壁排水小便器 幼児用 U310GY
    セルフリミング式洗面器 L350C
    台付自動水栓 TENA41A
    ハンドドライヤー高速両面タイプ TYC420WC
    壁掛大便器セット・FV式 UAXC1CS1AN
    WLアプリコットP AP2 TCF5830YR
    コンパクトオストメイトパック UAS81L/RDB2NW
  • 立花貴光氏の写真

    立花貴光Tachibana Takamitsu

    鉄道・運輸機構
    九州新幹線建設局
    建築第二課長
    (取材当時)

  • 金澤和誉氏の写真

    金澤和誉Kanazawa Kazutaka

    鉄道・運輸機構
    九州新幹線建設局
    諫早鉄道建築建設所
    担当副所長
    (取材当時)