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未来へ歩むヒト・モノ・コトを紹介するコラムです。
未来へ歩むヒト・モノ・コトを紹介するコラムです。
大腸がんや膀胱がんなどの治療のための手術によって、腹部に排せつ口(ストーマ)を造設した人のことを「オストメイト」と言います。オストメイトが抱える気持ちや課題はどのようなものでしょうか。当事者の生活に寄り添いながらストーマ装具を改良・提供する医療用装具メーカー・コロプラスト株式会社の松木恵理子さん、渡辺由莉香さん、WOC(ウォック)ナースの入江眞由美さんにお話を伺いました。
ストーマの造設、それは生きるためのポジティブな選択
松木恵理子さん(以下、松木)
渡辺由莉香さん(以下、渡辺)
入江眞由美さん(以下、入江)
ストーマについて教えてください。
ストーマとは、簡単に言うと手術によって腸や尿管の一部をお腹の外に引き出してつくった便や尿の出口(排せつ口)のことです。造設する場所によって名称が変わり、大腸に作ったストーマを「コロストミー」、小腸に作ったストーマを「イレオストミー」、尿路に作ったストーマを「ウロストミー」と言います。以前は「人工肛門・人工膀胱」とも呼ばれていましたが、体内に機械を埋め込むような誤ったイメージを持たれやすいため、最近ではあまりこの呼び名は使われなくなってきています。
ストーマを造設する理由は人それぞれ異なります。病気はもちろんですが、事故の影響で排せつ機能を十分に果たせなくなった方もいますし、外傷を受けたときや手術後など、一時的にストーマを造設する場合もあります。
ストーマを持った後に、ご自身の身体の変化を受容できず苦しまれる方も多いのが事実です。若い女性のオストメイトの中には、「もう恋愛や結婚はできないかもしれない」と塞ぎこんでしまう方もいらっしゃると聞きます。
オストメイトは自分の意思で排せつのタイミングをコントロールすることはできないため、腹部の皮膚に固定したストーマ装具に排せつ物を溜める必要があります
オストメイトのインタビューや認定看護師によるお悩み解決コーナーなどを掲載している無料情報誌『ゆうじん|結人』。WEBサイトでもバックナンバーを読むことができます(写真提供/コロプラスト)
オストメイトになってからも恋愛や結婚、出産をする方もいますし、ストーマ造設前と変わらず仕事や趣味に打ち込んでいる方もいます。オストメイトが集う交流会に参加して悩みや解決策を共有したり、先輩の体験談を聞いたりすることで、気持ちが楽になったという話もお聞きします。弊社ではストーマをお持ちの方のためのライフスタイルマガジン『ゆうじん|結人』を発行していますが、「ストーマを造設した直後は落ち込んだけれど、今は受け止めて前向きに暮らせているから、自分の考えや工夫がほかの方の参考になれば」とインタビューを受けてくださる方も少なくありません。
取材当日、たくさんの製品を持参して特長や使い方などを丁寧に説明してくださいました
ひとりの看護師が妹のために開発したストーマ装具。改良を重ね、日々進化している
ストーマ装具はどのように使うのでしょうか?
ストーマ装具は、ストーマ袋と、ストーマ袋を皮膚に固定する面板(皮膚保護剤)で構成されています。装着方法はシンプルで、剥離紙を剥がして面板を腹部の皮膚に固定するだけ。ストーマ袋の下部が開閉できる排出口になっているタイプの場合は、排せつ物が溜まったら排出口を開いてストーマ袋に溜まった排せつ物をトイレに流します。新しい装具には数日おきにつけ替えます。永久ストーマの方はストーマ装具に対して給付が受けられるのですが、自己負担も発生するため、経済的な面などから週に2回ほど交換する方が多いようです。
造設したストーマの形状やサイズは人によって異なります。面板にはさまざまなサイズをご用意していますが、ご自身のストーマの大きさに合わせて面板をカットしていただくフリーカットの製品もあります。高齢で手の自由が利かない方などは、介護者やご家族に装具交換をしてもらうことも多いです。
【ストーマ装具の装着手順の一例】
①フリーカットの面板を使う際は、ハサミを使いラインに沿って自分のストーマの大きさにあわせて孔を開けます
②排出口を閉じ、折りたたんで留めます。ストーマ周囲の皮膚を洗い清潔にし、水分を拭き取ります
③面板の剥離紙を剥がします
④皮膚が乾いたらストーマにあわせて面板を皮膚に貼り付けストーマ装具を装着します(※写真では衣服の上につけていますが、実際には腹部の皮膚に装着します)。手のひらで軽く押さえると、皮膚保護剤が温まり皮膚になじみやすくなります
ストーマ装具の開発のきっかけや改良の歴史を教えてください。
ストーマ装具が開発される以前は、ストーマからの排せつ物を受け止めるのにおむつを当てたり、お椀を身体に固定したりして対応していたようです。しかし、その方法には漏れやかぶれなどの問題がありました。現在使われているストーマ装具を世界で初めて考案したのは、デンマークの看護師エリーゼ・ソーレンセンです。大腸がんによりストーマ造設術を受け、漏れを恐れて外出を避けるようになった妹のために、粘着剤でお腹に装着するストーマ装具のアイデアを考案しました。そのアイデアをもとにストーマ装具が開発され、同じ課題を持つ人々が安心して生活を送れるようになったのです。これがコロプラスト社のはじまりでもあります。
コロプラスト社は1957年にデンマークで設立されました
その後、当事者の声を聞きながら改良を繰り返しています。とくに面板に使われている皮膚保護剤は進化していて、より肌に優しく、より密着性が増して漏れを軽減できるようになってきています。腹部の凹凸に合わせた形状の面板や内容物が見えない不透明タイプのストーマ袋、新生児・小児専用の装具など、豊富なバリエーションがあります。
オストメイト当事者からはどういったニーズが寄せられていますか?
この数年は「せっかく新しい人生をスタートさせたのだから、自分のできることを狭めたくない」とアクティブに動く方が増えている印象があり、「仕事中に音や匂いが周囲に伝わらないようにしてほしい」「すっきりしたラインの服を着ても目立たないようにしてほしい」という声をよくいただきます。でも、一番のニーズは昔から変わらず「漏れないようにしてほしい」ですね。
さまざまなニーズに対応できるよう、弊社でも多様な製品を用意しています。たとえば「センシュラ ミオシリーズ」では、どんな体型にもフィットして身体の動きに追従する伸縮性皮膚保護剤を採用し、漏れを防ぐ安全性を追求しました。ストーマ袋にガスが溜まって膨らむ“バルーニング現象”を防ぐガス抜きフィルターも備えていて、これは利用者の方から「膨らみが軽減される」ととても喜ばれています。色調は、衣服に響かず目立たないニュートラルグレーを採用しました。
左/コロストミー用/イレオストミー用/ウロストミー用、新生児用/小児用/大人用、透明/肌色/グレーなど、ストーマ装具にはさまざまなバリエーションがあります。右/ストーマ装具を交換する際に使う皮膚に優しい剥離剤、消臭潤滑剤など関連アクセサリーも多数
オストメイトの悩みに寄り添うWOCナース
WOCナースについて教えてください。
WOCナースは、「Wound(創傷)」「Ostomy(オストミー)」「Continence(失禁)」の分野において専門知識と技術を持つ「皮膚・排泄ケア認定看護師」です。国内の看護師免許を取得して通算5年以上の実務研修(うち3年以上は皮膚・排せつケア分野の実務研修)を受けた後、認定看護師の教育機関に入学してカリキュラムを修了し、認定審査に合格するとWOCナースとして登録することができます。資格は5年ごとに更新する必要があります。現在、WOCナースは国内に2500人ほどいるとされています。
オストミー領域で働くWOCナースはどういった仕事をするのですか?
ストーマ造設の際、医師に「できれば腹部のこの場所につくってください」と提案します。位置によってストーマの管理のしやすさが変わるからです。患者さんに対してはストーマの説明を行い、お身体に合ったストーマ装具を提案します。さきほどお話が出たとおり、患者さんのなかにはオストメイトになったことにショックを受け、病気と戦う気持ちや日常生活に戻る気持ちを失ってしまう方も少なくありません。ストーマを造設した後も日々の生活をしっかりと送れることをお伝えする必要があります。オストミー領域で働くWOCナースとして、患者さんの心に寄り添うケアが一番大切な仕事だと言っても過言ではありません。
手術に際して看護師が医師に提案を行うというのは、ほかの分野ではあまりないですよね。医師の仕事は病気を取り除くことですが、WOCナースの仕事はストーマ造設後の暮らしを支えること。オストミー領域の豊富な知識と経験を持っているので、オストメイト当事者にとって非常に心強い存在だと思います。
入江さんは急性期病院や訪問看護ステーションでの臨床経験を活かし、ストーマ装具の開発にアドバイスをしたり、メーカー主催の病棟看護師向け勉強会でストーマケアを教えたりしています
オストメイトはトイレでどのような処置を行うか?
オストメイトのみなさんは、ご自宅のトイレでどのように処置を行うのですか?
主に2通りあります。ひとつは、便座に座って股の間からストーマ装具内に溜まった排せつ物を捨てる方法。もうひとつは、便器に向かい合う形で腰を屈めたり、椅子に座ったりして捨てる方法です。ストーマを造設した位置や身体の状況によって、どちらか一方の方法でしか処置できない方もいらっしゃいます。
入江さんに装具に溜まった排せつ物の処置の様子を実演いただきました。ストーマを造設してすぐの方は、処置に苦労する方もいらっしゃるそうです
TOTOのパブリックトイレ向けの「コンパクト・オストメイトパック」について、ご意見やご感想をお聞かせください。
さきほど入江がお伝えした方法だと「体勢が辛く足腰に負担がかかる」といった声を聞きます。オストメイト用の汚物流しなら高さがあるので、そうした不便が解消されるのではないでしょうか。海外にはほとんどオストメイト対応トイレがないので、コロプラスト本社の社員が来日してオストメイト対応トイレを目にすると「すばらしい」と言いますね。
オストメイト用の汚物流しは立った姿勢で装具の処置ができます。不特定多数の人々が利用する公共交通機関や公共施設、観光施設などにおいて見られるこのピクトグラム(写真左下に表示)はオストメイト用設備を表しています
吐水口を引き出せる温水シャワーは、ストーマ装具交換時に使用済のストーマ装具を洗浄してから捨てたいときやお腹まわりを洗いたいときに使えるよう設置されています。ただ、コロプラストのみなさんからは「衣服を濡らさないようにお腹まわりを洗うのは難しいため、実際には外出先での腹部の洗浄は多くないかもしれない」という声がありました
ストーマ造設を、人生の終わりではなく始まりだと思えるように
最後に、読者に向けてメッセージをお願いいたします。
オストメイトになったことにより、「もう人生終わりだ」と落ち込んでしまう方のお話をたくさん耳にしてきました。受容に時間がかかったり、前向きになれない気持ちも十分に想像できます。それでも、ストーマを造設することで病気の進行を止めたり、以前より快適な生活を送ることができる可能性も高くなります。オストメイトのみなさんが、ストーマ造設を「新しい人生の始まり」と前向きに捉えられるように、より良い製品を開発していきたいです。
オストメイトの方から、「パブリックトイレを使用したとき、『なぜ長時間トイレにこもっているの』『なぜあなたは車いす使用者でもないのにバリアフリートイレを使っているの』という視線を感じる」という声を聞くことがあります。見た目からはオストメイトだとわからないので誤解を受けやすく、使いにくさを感じたり、遠慮されたりしているのだと思います。
当事者以外の方がオストメイトの困りごとやオストメイト対応トイレの意義を理解することで、当事者がトイレを気兼ねなく使え、外出しやすくなるのではないでしょうか。オストメイトについて知ってもらえるよう、周知活動に力を入れていきたいです。
「オストメイトのみなさんの暮らしやすさに少しでも貢献できたら」と熱く語るみなさん
誰もが病気や事故などでオストメイトになる可能性があります。でも、これだけ情報が溢れている時代なのに、オストメイトやストーマのことはあまり知られていません。そのために生きづらさを感じている方々がいます。ストーマを造設して病気や事故に打ち勝ち、新しい人生をスタートさせた人たちがいることを知って、応援してほしい。さまざまな事情を抱えた人がいることを認識して、あたたかく見守ってくれる社会であってほしいと願っています。
編集後記これまでオストメイトについては計3回、当事者の皆様に直接お話を伺い、記事化してきました。今回は一転、オストメイトの方々がストーマに使用する装具メーカーの皆様に取材させていただくことに。結果、オストメイトの方々をサポートする方々の仕事や心意気をあらためて認識することとなりました。これまでの当事者の方々のインタビューと併せ、今回の記事に目を通していただくと、オストメイトやストーマ、外出時の困りごとなどへの理解がより深まると思います。ぜひご一読ください。編集者 介川 亜紀
写真/鈴木愛子、取材・文/飛田恵美子、構成/介川亜紀 2025年1月24日掲載
※『ユニバーサルデザインStory』の記事内容は、掲載時点での情報です。