自然との共生に思いを馳せる挑戦的なトイレ
大阪・関西万博 トイレ1
2025.7.17


万博やIRの利用決定に伴い、更地となる以前の夢洲には、風や鳥たちが植物の種を運び、夢洲独自の生態系がつくられていた。万博会場にいながらかつてのその場所の歴史に触れながら、未来に思いを馳せる。このトイレは、そんなかつての夢洲の姿を再現して、過去と現在、そして未来を結ぼうとするものである。
※大阪・関西万博(EXPO 2025)において、会場内の休憩所・ギャラリー・トイレなど計20施設を、公募型プロポーザルにて若手建築家が設計。
本記事では、トイレだけでなく建築全体の紹介や、設計に携わった建築家の未来の建築に対する思いをご紹介します。
壁のなかに広がる原風景
外側は、工事現場の仮囲いなどに使われる安全鋼板によって囲われ、その内部にトイレブースと以前の夢洲を再現した中庭を配する。全体の平面形は、トイレブースのユニット単位でずれながら、ブースのないところは安全鋼板の壁を組み合わせて、なにか生き物のような不整形なかたちをつくる。個室ブースから中庭に出て、夢洲のかつての風景が広がる様子を見ながら万博会場の広場に戻っていく動線となり、トイレブースから中庭側に持ち出された屋根は、出口までの動線上に架かり雨風をしのぐ。
個室の出入り口が別の「通り抜け式トイレ」
最大の特徴は、個室ブースに建物の外側から入り、反対にある中庭側の扉から出るという動線。これまでもトイレ全体の入り口と出口が別になっている一方通行動線のトイレはあったが、個室自体に二つの扉があって出入り口が別という例は極めて珍しい。駅のエレベーターで乗った側とは異なる方向の扉から出るようなイメージだ。個室に入って鍵をかけると入り口扉外側のランプが点灯し、入室を外に知らせる。出るときは中庭側の扉の鍵を開けると自動的に入り口側扉も開錠し、ランプも消灯する※。中庭に出ると手洗い場が用意されており、手洗い場の向こうにかつての夢洲の植生が広がる。
※下段動画内(1’45”~)にて詳しくご紹介しています。
過去と未来のタイムトリップ
コンセプトは、会場である夢洲自体をプレゼンすること。事前に現地をリサーチし、そこにあった植生を中庭という囲われた場所に再現することで、未来に思いを馳せる万博会場にいながらかつてのその場所の歴史に触れる。庭の向こうの安全鋼板の壁は鈍く光って庭を反射し、小さな庭に広がりを与える。会期が終われば会場の諸施設は取り壊され、この場所もまた新たな使い方がされるわけだが、トイレから出ると広がる中庭の別世界は、人と自然の共生を思い起こさせ過去と未来をつないでいる。
ライター:市川幹朗
※映像・画像は開催前に特別な許可を得て撮影をしています。工事期間中の撮影につき、一部完成建物と異なる箇所がありますが、予めご了承ください。
・パブリックトイレレポート
本現場のインタビュー記事が掲載されています。詳しくはこちら→
・事例サイト
建築概要・図面・器具 情報を掲載しています。 詳しくはこちら→
施主 公益社団法人 2025年日本国際博覧会協会
設計 井上岳+棗田久美子+赤塚健+齋藤直紀+中井由梨/GROUP
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