自然のなかにいるような状況を最新技術でつくり出す
大阪・関西万博 トイレ4
2025.7.24


大地の上で暮らす人間にとって、「土」はもっとも身近な素材の一つだった。しかしアスファルトやコンクリートに覆われた都会で、「土」はむしろ触ることも避けたいもののように扱われている。この計画では、人類が長いあいだその恩恵を受けてきた「土」を見直し、蟻が大地に巣をつくるように、現代のテクノロジーを利用しながら人間の巣を土でつくることにチャレンジする。
※大阪・関西万博(EXPO 2025)において、会場内の休憩所・ギャラリー・トイレなど計20施設を、公募型プロポーザルにて若手建築家が設計。
本記事では、トイレだけでなく建築全体の紹介や、設計に携わった建築家の未来の建築に対する思いをご紹介します。
土の造形を抜けて入るトイレ
敷地は、万博のシンボルとなる大屋根リングのすぐ脇。そのリング側に、動物か昆虫の巣を思わせるような輪っか状の土の造形が4つ。これは、ちょっと腰掛けて休めるベンチで、現地で3Dプリント出力をしたものである。人通りの多いパブリックなところとトイレというプライベートな空間のあいだでバッファゾーンの役割も果たす。その隙間の峡谷のような通路を進むとトイレが現れる。手前に円形状に見えるのは男子トイレの小便器コーナーで、丸い壁面を木製パネルでつくり、そこに3Dプリントで出力した土を取り付けている。土は水分が少なすぎれば崩れ、多すぎれば泥状になって、やはり崩れる。設計段階では、多くの時間を大学の研究室と共同で材料研究に充て、いかに会期中適度な硬さを保ち、また終了後、環境負荷を与えることなく土に戻せるかが追求された。
拠り所となる大きな屋根を中心に
エントランスから伸びる通路に沿った左側にバリアフリートイレ、オールジェンダートイレが一列に並び、その奥に女性トイレ、右側に男性トイレが配置されている。特徴的なのは中央に傘のように立つ多角形の屋根。太い木が大きく枝を伸ばすような造形は求心性と安心感を与えてくれる。この傘を回りこむようにして進む女性トイレも、また男性トイレの小便器コーナーも、必要部分に庇を架けた半屋外空間となっているが、拠り所となる傘状の屋根があることで半屋外の不安を感じさせない。特に小便器コーナーは、屋根で完全に覆われていないので空気が淀むことがなく、開放感にあふれた空間となっている。
人と自然とデジタルの共存を目指して
このトイレは、土という人間にとって身近な素材と3Dプリンティングという現代技術を組み合わせた実験でもある。自然の造形のなかで、直線というものは存在しないが、3Dプリンターも「角」を作るのは苦手であり、角がなければ制作時間もコストも大幅に短縮されるという。直線を組み合わせて建築をつくることは、人が扱いやすいという合理性から生まれた行為なのかもしれない。さまざまなことが専門化され、建築もつくる人と使う人が分断されている状況のなかで、デジタルファブリケーションはそれをつないでくれる可能性があるのではないか。
ライター:市川幹朗
・パブリックトイレレポート
本現場のインタビュー記事が掲載されています。詳しくはこちら→
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建築概要・図面・器具 情報を掲載しています。 詳しくはこちら→
施主 公益社団法人2025年日本国際博覧会協会
設計 浜田 昌則/株式会社浜田昌則建築設計事務所・AHA 一級建築士事務所
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