多様なものが隔たりながらもつながって群となる

大阪・関西万博 トイレ8

2025.8.1

誰一人として同じ人間はいない。そんな当たり前のことも、効率や合理を求める計画学では均質化、標準化されてきた。だがそこからこぼれ落ちる人たちも大勢いる。そうした視点で改めてトイレのあり方を考え直した取り組み。それぞれの特性に合わせて数種類のトイレを用意することで、さまざまな需要に応えようとする。

※大阪・関西万博(EXPO 2025)において、会場内の休憩所・ギャラリー・トイレなど計20施設を、公募型プロポーザルにて若手建築家が設計。
本記事では、トイレだけでなく建築全体の紹介や、設計に携わった建築家の未来の建築に対する思いをご紹介します。

トイレの「常識」を疑うところから

世界中の人々が集う万博では、一般的な日本の公衆トイレよりもはるかに多様な人々の利用が想定される。人種、宗教観、文化的背景などとともに身体能力も異なる人たちに向けて平均点的なトイレでよいのか。こうした問題意識から出発したこのトイレは、複数回にわたるワークショップを開催して視覚障がい者や車いす利用者たちと協議を重ね、ユニットの並べ方や便器の向き、あるいはトイレブースに至る動線など、基本的な部分の見直しから設計がスタート。結果として、バリエーション豊かなトイレを高さの異なる小さな14棟に納め、多様な使われ方に対応する。

       

車いすでも視覚障がい者でも使いやすく

円形の敷地のなかに置かれた半円形建物を主体とする14棟の建物群は、オールジェンダートイレ+男性トイレ、女性トイレ+オールジェンダートイレ、単独のオールジェンダートイレ(バリアフリートイレ)の三つにゾーニングされる。前二者は、小さな建物たちに守られるように小さな広場的なスペースを経て個室ブースや小便器コーナーに向かうようになっている。ブース内部の広さは、車いす利用が可能な広めのもの、ゆったりできる中規模のもの、視覚障がい者が手の届く範囲で空間を認識できる小さめのものと3段階に分けられ、内部壁面は手探りで壁伝いに進んだ際に距離感のつかみにくい円形ではなく、多角形平面を採用している。

さまざまなものが混じり合うことの大切さ

従来のユニバーサルなトイレは、「誰もが使いやすい」ことを求めた結果として、均質な空間が思考され、平均的な解答に落ち着いてしまってはいないだろうか、という問いからスタートしたこのトイレでは、「多様でありながらもひとつながり」を重視する。多様な個性が混ざり合い、それぞれを尊重することの重要性について、高さの異なる小さなユニットが寄り添うように配置される構成が象徴的に示している。
ライター:市川幹朗

・パブリックトイレレポート
本現場のインタビュー記事が掲載されています。詳しくはこちら→
・事例サイト
建築概要・図面・器具 情報を掲載しています。 詳しくはこちら→

施主 公益社団法人2025年日本国際博覧会協会
設計 斎藤信吾+根本友樹+田代夢々
   斎藤信吾建築設計事務所+Ateliers Mumu Tashiro

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